財務状況悪化のインパクトと経営再設計

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環境変化がもたらす財務への影響

現在、中小企業は原材料の高騰、賃上げ、残業規制という3つの大きな環境変化に直面しています。これらの変化が企業の財務にどのような影響を及ぼすのか、具体的な数値を基に検証してみましょう。

黒字企業ケース1ケース2
売上184,608184,608184,608
変動費124,057130,259130,259
限界利益60,55154,34954,349
人件費36,25238,06439,967
その他17,12917,12917,129
経常利益7,170▲844▲2,747

内装業の黒字企業の平均値を例に見てみると、売上高1億8,460万円で経常利益717万円を計上しています。一見すると健全な経営に見えますが、この利益から法人税の納付や借入金の返済を行うと、実際に手元に残るキャッシュは決して多くありません。  

ケース1では、変動費(材料費・外注費)と人件費がそれぞれ5%上昇した場合を想定しています。この場合、経常利益は84.4万円の赤字に転落してしまいます。法人税の負担は実質的に均等割のみとなりますが、借入金の返済が継続的にキャッシュフローを圧迫することになります。さらに厳しいケース2では、人件費が追加で5%上昇することを想定しています。この場合、経常利益は274.7万円の赤字となり、事業活動によるキャッシュの減少に加え、借入金返済による資金流出が重なり、極めて深刻な財務状況に陥ることが予想されます。

経営適応への道筋

1. 価格転嫁の必要性と現実                                   この厳しい環境を乗り切るためには、価格転嫁が不可欠です。ケース2の状況を改善するためには、売上を現状の1億8,460万円から1億9,452万円へと、約5.4%増加させる必要があります。これは同じ工事内容で5.4%の値上げを実現しなければならないことを意味します。しかし、価格転嫁は容易ではありません。客観的な積算に基づく適正価格での受注を目指すべきですが、すべての顧客が値上げを受け入れてくれるわけではないのが現実です。

ケース2価格転嫁
売上184,608194,525
変動費130,259130,259
限界利益54,34964,266
人件費39,96739967
その他17,12917,129
経常利益▲2,7477,170

2.薄利多売戦略の限界                                     利益率が低下しても受注量を増やすことで対応しようとする企業もありますが、この戦略には重大な問題があります。工事量の増加は現場管理の負担を増大させ、人材の確保や外注先の手配も必要となります。さらに、残業規制が強化される中で、この戦略を実行することは極めて困難です。これまで多くの中小建設業の決算書を拝見し、営業活動をお聞かせいただきましたが、受注を優先にあまり利益を考えずに営業している企業ではほとんどが赤字か低収益でした。「せっかく営業力があるので、儲かる売上を取りに行きましょう!」とお話する事が多く、それを実践して頂いた企業は一気に黒字が増えました。やはり、薄利多売の作戦はリスクが大きいように思えます。

経営再設計の具体的アプローチ

1. 工事利益の最大化                                     まず取り組むべきは、見積前の積算最適化、適正価格での見積提示、実行予算の策定、そして原価管理という基本的な活動の徹底です。これらは当たり前の活動に見えますが、多くの建設業では日々の業務に追われて十分に実践できていません。現在の厳しい環境下では、これらの基本活動は単なる改善策ではなく、生存のための必須条件となっています。                        2. 顧客構造の見直し                                     適正な見積価格を提示しても、値引きを要求したり、まったく耳を貸さない顧客も存在します。このような顧客への依存度を下げ、適正な価格を受け入れてくれる顧客の開拓に注力することが重要です。良質な施工を評価し、適正な対価を支払ってくれる顧客は確実に存在します。顧客構造の見直しに成功し、高収益化を実現した企業は数多く存在します。                       3. 重点工事分野の最適化                                   多くの建設業では、工事の規模や種類によって収益性が大きく異なります。例えば、500万円規模の工事では安定した利益を上げているにもかかわらず、3,000万円規模の大型案件で大きな赤字を出してしまうケースがよく見られます。各企業には、施工技術やマネジメント力、外注先との関係など、その企業特有の強みを活かせる「得意分野」があります。この得意分野に経営資源を集中することで、収益性を高めることができます。                                    4. 施工エリアの最適化                                    残業規制や割増賃金率の上昇を考慮すると、移動時間の長い遠方での工事は採算が取りにくくなっています。近隣地域での元請工事の獲得に注力するなど、戦略的なエリア設定が必要です。       5. 働き方改革への対応                                    休日増加と残業削減は、中小建設業にとって最も困難な課題の一つです。以下のような対策を検討する必要があります:

  • 現場管理のデジタル化による移動時間の削減
  • 業務の効率化と外部リソースの活用
  • 地域内の同業者との協力体制構築
  • 外国人労働者の活用検討

財務再設計の重要性

経営再設計を行う際は、それが財務にどのような影響を与えるのかを具体的に試算することが重要です。検討した施策が望ましい財務状況を生み出さない場合は、確信が持てるまで何度でも計画を練り直す必要があります。以下の点に特に注意を払いましょう:

  • 売上高と利益率の予測
  • 運転資金の必要額
  • 設備投資の計画
  • 借入金の返済計画
  • キャッシュフローの見通し

まとめ

厳しい経営環境の中で生き残るためには、自社の特性を十分に理解した上で、実効性のある経営再設計を行う必要があります。その際、財務面での影響を慎重に検討し、持続可能な事業モデルを構築することが重要です。経営再設計は一度で完了するものではありません。環境の変化に応じて継続的に見直しを行い、必要な修正を加えていくことで、強靭な企業体質を築いていくことができます。