経営者が患う5大疾病(その1 分散症候群①)
私は30年かけて、かなりの数の中小企業の経営者と向き合ってきました。今日は、経営者が陥りやすい重大な経営疾患について、特に「分散症候群」に焦点を当ててお話します。
分散症候群の本質
分散症候群は、経営者が本来持つべき「新しいことへのチャレンジ精神」という素晴らしい資質が災いして、経営を蝕む病になってしまう状態です。30年の実務経験から、この症状は以下のような形で表れることがわかっています
主な症状
- 商品・サービスラインの無秩序な拡大
- 顧客層の無制限な拡大
- 事業領域の際限のない拡張
- 経営資源をかえりみない分散
- 各商品・サービスの品質低下
なぜ危険なのか
経営者の認識
最も危険なのは、経営者本人が「これは積極的な経営努力だ」と間違った認識をしていることです。 私の顧問先でも、毎年のように新規事業に手を出し、結果として本業の競争力を落としてしまっているケースを多々見てきました。
有害である
- 経営資源の分散による本来の強みの希薄化
- 商品・サービスの品質低下
- 顧客満足度の低下
- コスト増による収益性悪化
- 組織の複雑化によるミスや非効率の増加
分散症候群の治療法
1. 商品・サービスの集中と選択
私の経験では、成功している企業の多くは、当面提供する商品・サービスを絞り込む傾向にあります。例えば、ある製造業の顧問先は、扱う製品を従来の1/3に絞り込むことで、利益率を2倍に改善させていただきました。
2. 顧客層の明示化
すべての顧客に対応しようと考える発想を改め、自社の強みを最大限に活かせる顧客層に特化することが重要です。
3. 事業領域の集中
本業への経営資源の集中は、競争力強化の基本です。新規事業展開は、本業の競争力を落とさない範囲内で慎重に判断する必要があります。
予防のポイント
1.コアコンピタンスの魅力
- 自分の本当の強みは何か?
- どの領域で競争優位性があるのか?
- 顧客が本当に評価してくれている点は何か?
2. 経営資源の最適配分
- 人材、資金、時間の効率的な配分
- 注目分野への優先的な資源投下
- 不採算分野からの撤退判断
実践的な対策
私の顧問先での成功事例から、以下の対策が効果的だと考えています
1. 定期的な事業評価
- 商品・サービス別の採算性確認
- 顧客別の収益貢献度分析
2. 経営資源の再配分
- 拡げ過ぎた不採算事業からの早期撤退
- 最重要な事業ドメインの再認識
経営者への提言
30年の経験から、私は以下のことを強く信じています:
- 新規事業への発展は、既存事業の競争力が十分に確立された後に検討すべき!
- 経営資源は「点」に集中させ、その分野での圧倒的な強みを作るべき!
- 「あれもこれも」ではなく「これだけ」という経営姿勢が重要!
まとめ
分散症候群は、経営者の積極性という長所が、皮肉にも裏目に出る症状です。この症状に気付き、適切な対策を講じることが、持続的な成長への近道となります。経営者の皆様、新しいことへのチャレンジ精神は素晴らしいことだと思います。しかし、その情熱を正しい方向に振り向けることが重要です。まずは自社の強みを再確認し、その強みをさらに磨き上げていくことに注力してください。
昭和63年、中央大学商学部卒。
その後、大手ゼネコン勤務等を経て、平成7年、石田雄二税理士事務所開業。
「会計事務所は最も身近な経営スクール」をモットーとし、マネジメントゲームを用いた経営指導は県外にまで及ぶ。
広島県創業サポーター。広島県事業引継ぎ支援センター登録専門家。