『金融庁の方針転換の本質』 …返せる企業に融資をするという基本姿勢は変わりません。
昨年頃から、金融庁の中小企業金融の方針転換に関する情報を
目にする機会が増えています。金融庁が、これまでの金融庁マ
ニュアルの運用を撤廃し、企業の事業性をきちんと評価して融
資をするよう金融機関に要請しているという内容です。
中小企業向けの雑多な情報の中には、「これまでの決算内容に
基づく審査が、今後は事業性の評価に基づく審査に変わるため、
決算内容が悪くても、容易に融資を受けられるようになる。」
といった誤解を招くようなものまであります。本質はどこにあ
るのか、情報に踊らされず冷静に対処したいものです。
まず、金融機関の、「返してもらえる企業に融資をする。」と
いう基本姿勢は変わりません。返してもらえるかどうかを判断
するためには、過去の実績である決算書は大変重要な判断材料
となりますので、今後も変わらず重要視されるはずです。また、
事業性評価については、これまでも全くしてこなかった訳では
ありませんし、「そもそも事業性の評価など出来る人はいるの
か?」という現実的な問題もあり、与信判断に正しく反映させ
るのは大変困難です。
よって、方針転換は、既存の与信判断を本質的に変えるもので
はないと考えます。これまで融資を受けられた企業様は、方針
転換後も引き続き融資を受けられますし、これまで融資を受け
られなかった企業様は、方針転換後も融資を受けるのは簡単で
はないでしょう。
金融機関が決算内容の悪い企業に融資をしてこなかった直接的
な要因は、事業性の評価ではなく、別のところにあります。引
き当てです。
実は、これまでのルールでも、決算内容が悪い企業に融資をす
ることは可能でした。しかし、融資をすることは可能でも、決
算内容に応じて引当金を積まなくてはならなかったため、実際
には融資ができないのと同じことです。
今後の方針転換により、決算内容に応じてではなく、各金融機
関独自に引き当てのルールを定めて良いとなれば、決算内容が
悪くても本当に融資をすることが可能になります。事業性が高
いためデフォルトリスクが少ないと金融機関が判断すれば、引
当金を積むことを回避できるためです。
ただ、そもそも、事業性の評価が高い企業は総じて決算内容も
良いです。「事業性の評価は高いが決算内容が悪い」という中
小企業はそう多くないと感じますので、やはり方針転換による
影響は限定的ではないでしょうか。
審査の基準が決算内容か事業性の評価かというテクニカルな議
論に過敏に反応しても大きな成果は得られません。正論となっ
てしまいますが、やはり、マーケティング、商品、サービス、
経営管理体制の強化等、本質的な企業活動に粛々と取り組んで
利益を上げることが、全ての答えに通じると感じます。
昭和63年、中央大学商学部卒。
その後、大手ゼネコン勤務等を経て、平成7年、石田雄二税理士事務所開業。
「会計事務所は最も身近な経営スクール」をモットーとし、マネジメントゲームを用いた経営指導は県外にまで及ぶ。
広島県創業サポーター。広島県事業引継ぎ支援センター登録専門家。